夜明けの五竜岳、そして忘れられない味【3日目】

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1. 午前2時、星だけが起きている朝

3日目の朝。
午前2時に目が覚めた。

五竜山荘の外トイレは近く、昨日までとは違って気軽に外へ出られる。
夜空を見上げると、星がはっきりと輝いていた。

母とは3時に合流する約束だ。
静かな山の中で、今日という一日がゆっくり立ち上がっていく。

2. ヘッドランプをつけない母

3:15、五竜岳へ向けて出発。

母はヘッドランプを装着せず、
片手に小さな懐中電灯だけを持っていた。

「すぐ明るくなるから大丈夫」

そう言う母を、私は後ろから照らし続ける。
心配性な息子と、経験で判断する母。
いつもの関係だ。

しばらく登って振り返ると、
前にも後ろにもヘッドランプの光はなかった。
どうやら私たちが一番手で歩き出していたらしい。

3. ゆっくりしか進めない、だから確実に進める

私たちはいつも、YAMAPのコースタイムを倍で見積もる。
速くは歩けない。
でも、止まらずに歩く。

小柄な母にとって、五竜の岩場は一つ一つが大きい。
それでも母は、慎重に、確実に足を置いていく。

急がない。
焦らない。
ただ、前へ。

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4. 東の空が染まりはじめる時間

東の空が少しずつ明るくなっていく。
この時間が、私は好きだ。

大雲海の奥が、オレンジ色に染まっていく。
五竜岳山頂手前の分岐で、朝日が昇りはじめた。

「ここまで来たんだな」

言葉にしなくても、そう思えた。

5. 母の背中を見て、込み上げたもの

山頂まで、最後のまっすぐな道。

後ろから母の背中を見ていると、
胸の奥から、何かが込み上げてきた。

理由ははっきりしない。
ただ、ここに一緒に立とうとしていることが、
静かに、でも確かに嬉しかった。

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6. 五竜岳登頂。来てよかったと思えた場所

五竜岳登頂。

母とここに立てたことが、素直に嬉しかった。
そして同時に、
「来てよかった」
そう心から思えた。

7. 明るい下山と、初めてのブロッケン

下山道はすっかり太陽に照らされていた。
母は怯むことなく、降りていく。

霧の中で、ふと横を見ると
ブロッケン現象が現れた。

初めて見る光景だった。
思わず立ち止まる。

8. 予期しない転倒と、山での対処

五竜山荘のテント場に戻ると、
荷揚げのヘリコプターが到着した。

強烈な風圧の中、
小屋番の方が一緒にテントを押さえてくれた。
こういう場面での人の優しさが、山では沁みる。

朝食後、遠見尾根から下山。
山岳パトロールの方から
「事故の多いエリアなので、十分気をつけて」と声をかけられる。

その後、岩場ではない場所で、
母が大きく転倒した。

左手首を負傷。
タオルを強く巻いて応急処置をする。
かなり痛そうだ。

雪の残る道も多く、
再び転ばないか、正直ヒヤヒヤした。

9. あるもので工夫する母

大きな雪渓のある場所でしっかり休憩。
冷たい雪で、手首を冷やす。

「なるほど、そう使うか」

あるものを、ちゃんと使う。
母らしい発想だと思った。

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10. 暑さと登り返し、それでも前

下山道には何度か登り返しがある。
暑さもあり、体力を奪われる。

休憩を入れ、
水分と行動食をしっかり取りながら進む。

次第に、町が近づいてくるのがわかった。
「もう少し」

11. ゴールと、忘れられない味

アルプス平駅に到着。
ゴールだ。

母とグータッチ。
重い荷物を下ろす。

そして二人で食べたソフトクリーム。
あの味は、きっとずっと忘れない。

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12. エピローグ

三日間、母と山を歩いた。

速くはなかった。
楽な道でもなかった。
それでも、一歩ずつ確実に前へ進んだ。

山頂に立ったことよりも、
同じ時間を、同じ尾根で重ねられたことが、何よりだった気がする。

歩ける体があること。
歩きたいと思える気持ちがあること。
そして、隣に誰かがいること。

それだけで、旅は十分だった。

もし今、
「いつか」「そのうち」「また今度」と思っていることがあるなら。

それは、
本当は“もう始められること”なのかもしれない。

速さも、距離も、人それぞれでいい。
大切なのは、誰と、どんな気持ちで歩くか。

そんなことを、山を歩きながら何度も考えていた。

13. そして、その先へ

山を下りても、旅は終わらなかった。

次に思い浮かんだのは、
また母と歩きたいという気持ちだった。

雲ノ平。
すぐに辿り着ける場所ではない。
だからこそ、そこへ向かう時間も含めて、旅になる。

また、ゆっくり準備をしよう。
また、一歩ずつ歩こう。

この続きは、きっと山が教えてくれる。

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