2025年10月、私は76歳の母と槍ヶ岳(3,180m)に登りました。
台風接近という最悪の予報の中、それでも「行く」と決めた前夜から、雨の中の下山まで——。この記事では、全5回にわたる槍ヶ岳登山シリーズを一本にまとめてご紹介します。各記事へのリンクも掲載していますので、気になる回から読んでいただけます。
槍ヶ岳登山シリーズ 全5回 一覧
- 前日記:台風接近!?それでも憧れの槍ヶ岳へ。前夜に抱えた不安と決意
- 1日目:「いつか」を「今」に変えて。上高地〜槍沢ロッヂへの序曲
- 2日目前半:母が「軍手」を買った理由。逆さ槍の奇跡と確信の雲海
- 2日目後半:穂先へ|76歳の母と立った3,180mの頂
- 最終回:雨の下山路で見つけた、76歳母の「強さ」と親子登山の真意
【前日記】台風接近でも、槍ヶ岳へ向かった理由
出発前夜、天気図には大きな台風のマーク。「東北の山に変更しよう」と弱気になった私に対し、過去2度の槍ヶ岳登頂経験を持つ母は「大丈夫」と一言。
松本城を観光し、林檎の湯屋おぶ〜で体を整え、沢渡市営第2駐車場で車中泊。足湯に浸かりながら、不安と期待が入り混じる前夜を過ごしました。
【1日目】上高地〜槍沢ロッヂ|かつて観光客だった私が、山を歩く側へ
コースタイム(参考):上高地 6:42 → 明神池 → 徳沢 11:16 → 横尾 13:31 → 槍沢ロッヂ 15:30
台風の影響で梓川は濁り、穂高は厚い雲に包まれていました。それでも母は穏やか。横尾では「槍方面は全体の5%」と告げられましたが、それが逆に誇らしかった。
徳沢で昼食中、母の帽子に止まった2匹のトンボ。本人は気づかず黙々と食べる——そんなほのぼのとした瞬間も、親子登山の醍醐味です。槍沢ロッヂでは電波が届かないなか、翌日の「勝負は午前」と戦略を立てました。
【2日目前半】逆さ槍の奇跡|天狗池で見た、ガスが割れた瞬間
5:38出発。槍沢の紅葉が圧倒的な美しさで私たちを出迎えました。
母が槍ヶ岳とは逆方向の山を指して「あれが槍よ!」と叫んだ愛すべき場面(2回登頂経験者とは思えない)を経て、9:55に天狗池に到着。ガスに覆われ何も見えなかったその瞬間——雲が割れ、逆さ槍が池に映し出されました。その場にいた全員が歓声を上げた、忘れられない瞬間です。
15:00、槍ヶ岳山荘到着。眼下に広がる雲海を見て「山頂はとんでもない景色になる」と確信。そして母が小屋番さんに「軍手、売ってますか?」と尋ねた一言で、76歳のスイッチが入ったとわかりました。
【2日目後半】穂先へ|76歳の母と、3,180mの頂に立った
15:40、山荘を出た瞬間にガスが晴れ、雲海と青空が広がりました。「これは貸し切りだ」——穂先に人影はなく、私たちだけの槍ヶ岳。
母は槍ヶ岳3回目の登頂(20代・50代・76歳と25年周期)。岩に描かれた○印を迷いなく追い、三点支持で着実に高度を上げていきます。最後の梯子(9メートル)を登り切った母から「着いたよー」という声が降ってきた時、胸が熱くなりました。
16:15登頂。山頂にいたのは、母一人。グータッチを交わし、二人で槍ヶ岳の看板を掲げた瞬間——ずっと心に秘めていた願いが、静かに叶いました。
【最終回】雨の下山|76歳母の「トコトコ小走り」に涙した日
3日目の朝、ガスと雨の中を下山。槍ヶ岳山荘を出てすぐ、8羽の雷鳥の群れと出会いました。
雨に濡れた紅葉は晴天とは別の美しさを持ち、梓川の源流で飲んだ冷たい水は格別でした。横尾からは最終バスに間に合わせるため小休止のみで強行。平坦な道で母が「昔はここを走ったものよ」と言い、トコトコと小走りを始めたその姿に、私は涙が出そうになりました。
16:45、上高地バスターミナル到着。言葉よりも先にグータッチ。「色々大変でした」と笑う母の顔には、やり遂げた者だけの充足感が溢れていました。
槍ヶ岳登山 基本情報まとめ
ルート概要(上高地〜槍ヶ岳ピストン)
- 1日目:上高地 → 明神池 → 徳沢 → 横尾 → 槍沢ロッヂ(宿泊)
- 2日目:槍沢ロッヂ → 天狗池 → 槍ヶ岳山荘 → 穂先(槍ヶ岳山頂3,180m)→ 槍ヶ岳山荘(宿泊)
- 3日目:槍ヶ岳山荘 → 槍沢 → 横尾 → 徳沢 → 明神池 → 上高地
コースの特徴
- 上高地〜槍沢ロッヂまでは傾斜が緩く歩きやすい(初日は体力温存)
- 槍沢ロッヂ〜槍ヶ岳山荘は傾斜が増す。天狗池(逆さ槍スポット)は往復1時間の寄り道あり
- 穂先(山頂アタック)は一方通行の岩場・鎖場・垂直梯子。三点支持が必須
- 午前中に穂先を狙うのがセオリー(午後はガスが出やすい)
宿泊・アクセス
- 前泊:沢渡市営第2駐車場(車中泊可・足湯あり)
- 1泊目:槍沢ロッヂ
- 2泊目:槍ヶ岳山荘
- バス:沢渡〜上高地(始発は早朝4時台から。往路は長蛇の列になることも)
装備のポイント
- 穂先アタック用に軍手またはグローブ(岩を掴むため必須)
- 3,000m超は防寒具必携。レインウェアは必ず着用(濡れると体温が奪われる)
- 槍沢ロッヂ以降はdocomo圏外。天気予報は小屋の掲示板を参照
おわりに|「いつか」を「今」に変えた旅
槍ヶ岳は、登る前から「怖い山」でした。遠くから眺めていたあの尖った穂先。まさか76歳の母と二人で頂に立てるとは——登り終えた今も、不思議な気持ちが続いています。
台風、雨、低体温の予兆……色々なことがありました。それでも、母と同じ景色を見て、同じ苦難を乗り越えた。その一歩一歩の記憶は、一生消えないと思います。
「いつか」なんて言っていたら、人生はあっという間。
今、この瞬間を共に歩ける幸せを、これからも大切にしていきたいと思います。
各回の詳細はそれぞれの記事でお読みください。

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