【月山登山】77歳の母と歩いた出羽三山 ― 八合目・弥陀ヶ原から山頂へ、土砂降りの果てに見えた鳥海山

月山

鳥海山を登り切った翌日。77歳の母と、山形県の月山(1,984m)に登ってきました。

東北の山旅、3日目にして最終日。この日は快晴でも絶景でもなく、山頂はガスの中、下山では土砂降りに遭いました。

それでも私にとって、この日は忘れられない一日になりました。

「出来ないことを嘆くのではなく、出来ることを探す」——母のその姿勢を、いちばん強く感じた日だったからです。

鳥海山1日目の記事はこちら|象潟口(鉾立)から千蛇谷を経て、山頂の御室小屋へ

鳥海山2日目の記事はこちら|暗闇の新山アタックで迎えた御来光と、外輪山の天空散歩


休暇村庄内羽黒の「登山応援プラン」が優秀だった

鳥海山の下山後、私たちは国民休暇村庄内羽黒に宿泊しました。おかげで体力はすっかり回復。

ここには登山応援プランというものがあり、朝食をお弁当にしてもらえて、さらにお昼用のおにぎりまで用意してくれます。今回はこのプランで申し込んでおきました。

朝5時起床。朝食弁当とおにぎりを受け取り、部屋で朝ごはんを済ませます。

宿から月山八合目登山口までは車で約40分。月山に登るには理想的な立地の宿でした。

💡 早朝出発が前提の登山では、「朝食が部屋で食べられる」ことの価値は非常に大きいです。宿の朝食開始時間を待っていると、それだけで1時間以上ロスすることもあります。


月山とはどんな山か

月山(がっさん)は、山形県の中央部に位置する標高1,984mの山。羽黒山(414m)、湯殿山(1,500m)とともに出羽三山を構成する主峰です。

日本百名山であり、花の百名山・新花の百名山にも選ばれています。世界でも珍しい半円形のアスピーテ型火山とされ、そのなだらかな山容から臥牛山(がぎゅうさん)とも呼ばれてきました。

出羽三山は6世紀に蜂子皇子が開いたと伝えられる修験の山。羽黒山は現世、月山は前世、湯殿山は来世を表すとされ、三山を巡ることは「生きながらにして生まれ変わる旅」を意味すると言われます。

山頂には月山神社本宮が鎮座し、祭神は月読命(つくよみのみこと)。開山期間は例年7月1日から9月中旬までのおよそ2か月半に限られます。

松尾芭蕉も『奥の細道』で月山に登っており、山頂南西面には句碑があります。

基本データ

項目 内容
標高 1,984m
所在地 山形県(鶴岡市・西川町ほか)
別名 臥牛山
種別 日本百名山、花の百名山、出羽三山、磐梯朝日国立公園
山頂 月山神社本宮(開山:7月1日〜9月中旬頃)
八合目からの標高差 約600m

7:13 月山八合目登山口を出発

前日と違い、この日は寝袋がなく食料も少なめ。鳥海山と比べると、荷物はだいぶ軽い。

ただ、鳥海山で日焼けした肌が太陽に照らされて少し痛みました。

本日の天気予報は、曇りからの霧・雨。早めの行動が吉なのは分かっていますが、私たちのペースはいつも通りです。

弥陀ヶ原 ― 東北らしさを演出する湿原

登り始めてすぐ、弥陀ヶ原が広がります。

標高1,400m、130種類以上の高山植物が咲くと言われる湿原で、木道が整備され、大小の池塘が点在しています。月山八合目まで車で上がれてしまうので、この湿原だけを目当てに訪れる人も多い場所です。

母の後ろを歩きながら見上げると、遠い先に月山の山頂も綺麗に見えていました。

弥陀ヶ原の木道の先に見えてきた月山の山頂

青空と、湿原の中の池塘。太陽の光が水面に反射してキラキラと美しい。

弥陀ヶ原の池塘に太陽の光が反射してきらめく様子

8時頃から雲が多くなり始めましたが、雲の合間から差す太陽もまた綺麗でした。

月山には、アルプスにはない優しさがある

歩きながら、私はこんなことを考えていました。

月山には、アルプスにはない優しさのようなものを感じる。

木々ではなく、笹のような草に覆われた広大な緑。その中に、8月でも残る雪渓がある。険しさで人を圧倒するのではなく、包み込んでくるような自然です。東北の自然美に癒される、という言い方がいちばん近い。

ニッコウキスゲとコバイケイソウは、もうこの時期のお馴染みの花々。高山植物をあまり知らない私でもよく見かける花で、月山でもたくさん目にすることができました。

月山の登山道沿いに咲くニッコウキスゲとコバイケイソウ

母の好きなものを、自分も好きになる

高山植物に詳しくなかった私が、少しずつ花の名前を覚えるようになりました。

理由は単純で、母が好きだからです。

母が好きなものを自分も好きになると、登山中の母との会話が広がるようになりました。

これは親子登山を続けるうえで、たぶん一番効いていることかもしれません。同じ景色を見ていても、共通の話題があるかないかで、山での時間の密度はまったく変わります。


9:38 佛生池小屋 ― 母の足の傷と、短パンの理由

佛生池小屋に到着。八合目から山頂までのちょうど中間地点にあたる山小屋です。

朝ごはんが早かったので、ここで宿からいただいたおにぎりを食べることにしました。しっかり休憩をとって先へ進みます。

母はなかなかスピードが上がらず、何度も休憩を挟みながらの歩みです。

休憩中、母の足を見て気づきました。傷が多い。

鳥海山でも短パンで登っていたので、岩などにぶつけてしまったのでしょう。

「足、大丈夫か」と聞くと、母はこう答えました。

「母さんは暑がりで遅いから、短パンの方が良い」

自分の体力を考えたうえで、傷や虫刺されのリスクを引き受けても短パンの方が良い、という判断なのだと思います。

母は自分のことを本当によく理解している。だからこう言われると、私はむしろ安心できるのです。

77歳という年齢で山に登り続けるということは、体力があるという話だけではなく、自分の体と正確に対話できているということなのだと思います。

短パン姿で佛生池小屋まで登ってきた77歳の母


12:00 山頂はガスの中。それでも嬉しかった

次第に雲の中へと入っていきます。雨が降らないといいのだけれど……。

そして山頂が近づくと、パカーンと雲が割れて青空が顔を出しました。

山頂が近づき、雲が割れて青空がのぞいた月山の登山道

もしかすると山頂で絶景が待っているのか——そう期待しましたが、山頂はガスの中でした。

それでも、母と鳥海山に続いて東北の名峰を登れたことが、ただただ嬉しかった。

ガスに包まれた月山の山頂

「昔と変わらない」

山頂付近を散策すると、コバイケイソウの群落がありました。

月山の山頂付近に広がるコバイケイソウの群落

それを見て母が、目を輝かせてこう言いました。

「昔と変わらない」

月山頂上小屋の前で、母が「写真を撮ってほしい」と言います。

どうやら昔、登山仲間と泊まったことのある思い出の場所らしいのです。

母にとっては特別な場所なんだろうな、と思いました。何十年か前、母がここに立っていた。その同じ場所に、今また立っている。山はそういう時間の重ね方ができる場所です。

何十年か前にも訪れた思い出の場所に立つ77歳の母

山頂付近で休憩していると、青空が出たり消えたりを繰り返していました。

山での雲は大きく、写真に撮るとスケールが出ます。山の良さは晴天だけではない、というのが面白いところです。

山頂付近の休憩中に見上げた、大きな雲と青空


13:00 下山開始 ― そして土砂降り

13時、冷たい風が吹き出しました。

雨が来る。直感でそう分かったので、母に降りようと伝えます。

下山し始めてすぐ、ポツリポツリと降り出しました。母にレインウェアを着ようと伝えます。

このとき、私はレインウェアを上下とも着ました。ところが母は「すぐ止むかもしれない」と考え、上だけ着たのです。

そして再び降り出した雨は、あっという間に土砂降りになりました。

たまらず母は、遅れながら下のレインウェアも着ることに。その間、私は折りたたみ傘で母の上を覆って雨を遮りましたが、内心「あの時ズボンも履いておけば……」と思っていました。

⚠️ 山の雨は「面倒くさい」が命取り 降り出しの一瞬で上下とも着てしまうのが正解です。上だけ着て様子を見ると、たいてい後から慌てることになります。特に濡れた状態での下山は、体温を一気に奪われます。


土砂降りの中で出会った、もうひとつの親子

雨が降り続く中、後ろから私と同じくらいの年齢の男性と、母と同じくらいの年齢の方のパーティーが来ました。

先を譲るとき、気になったので聞いてみました。

「親子ですか?」

笑顔で「そうです」と返ってきました。

この土砂降りの中、同じ境遇の親子に、私は物凄い親近感を覚えました。

後に雨が止み、再びお会いした時に少し話をしたのですが、息子さんは私の2つ上の48歳、お母様は76歳。うちの母と一つ違いです。

出羽三山を三つとも登る旅なのだと言っていました。

土砂降りの月山で出会った、もうひとつの親子登山

2026年は「羽黒山 午歳御縁年」

実は私たちも、羽黒山には行きたいと思っていました。

というのも、2026年(令和8年)は羽黒山にとって12年に一度の「午歳御縁年(うまどしごえんねん)」にあたるからです。

御縁年とは、干支と神社仏閣の縁起がある年が重なる特別な年のこと。出羽三山では月山が卯歳、湯殿山が丑歳、そして羽黒山が午歳とされています。この年に参拝すると、12年分の御利益や大いなる御神徳を授かると言い伝えられてきました。

羽黒山は出羽三山のなかで「現世を表す山」。この世の幸せを願う山とされることから、御縁年には多くの参拝者が訪れます。

私たちは前日、鳥海山からの帰りが遅くなってしまい、羽黒山には行けませんでした。

だからこの親子の話を聞いた時、私たちと少なからず似たことを考えている人がいると分かって、嬉しくなったのです。

前日に鳥海山を登ったことを伝えると、非常に驚かれました。母のパワーに驚いてもらえるのは、息子として素直に嬉しい瞬間です。

登山中にすれ違う人には不思議と親近感が湧くものですが、この二人との出会いには、何か特別なものを感じました。


母、全力で間違える

少しずつ青空も見え出してきました。

ここで母が痛恨の誤りをします。

急に「鳥海山だ」と叫んだのです。

私にはどこにも鳥海山が見えません。「どの山が鳥海山?」と聞くと、指差した先は月山に連なるただの尾根でした。

母が鳥海山と間違えた、月山に連なる尾根

全力で間違える母が、私はおかしくて笑いが止まりませんでした。

(ちなみに前日、鳥海山の外輪山では雲海を指して「あれが日本海でしょ」と言っています。母の方向音痴は筋金入りです)


17:00 そして、本物の鳥海山が現れた

時刻はもう17時を過ぎ、弥陀ヶ原が見えてきました。

雲がすっかり取れて、青空と池塘と緑のコントラストが綺麗です。

もう人とすれ違うこともなければ、追い抜かされることもありません。私と母しかいないような、静かな山歩き。

特に急ぐこともなく、私たちは休憩していました。

すると——遠い空の雲の中に、うっすらと山が浮かんでいるのが見えたのです。

鳥海山だ。

確信は持てませんでしたが、そう思いました。(後で調べたら、やはりそうでした)

なんだか昨日はあそこのてっぺんにいて、今はそこを月山から見ている。

東北の山旅が、もう終わるんだなあ。しみじみと、そう思いました。

雲の切れ間から姿を現した本物の鳥海山

見納めの月山と、ベンチで見上げた空

月山神社中ノ宮まで来ると、お地蔵さんと赤い風車の後ろに、再び月山がくっきりと見えました。

これが見納めです。

月山神社中ノ宮のお地蔵さんと赤い風車、その後ろにそびえる月山

最後の木道歩き。日が落ちてきて、凄く綺麗でした。

日が落ちて夕日に染まる弥陀ヶ原の最後の木道歩き

ベンチがありました。母が横になります。私も隣で横になって、空を見上げました。

風がとても気持ちよく、贅沢な時間のように感じました。

弥陀ヶ原の木道のベンチから母と並んで見上げた空


18:06 月山八合目駐車場にゴール

戻ってきた時の夕陽が、綺麗すぎました。

母と、お疲れの儀式のグータッチ。

私たちの東北3日間の山旅は、ここで終わりです。

下山後、月山八合目駐車場で迎えた夕陽


出来ないことを嘆くのではなく、出来ることを探す

昨年は北アルプスに行っていました。

今年は母の膝の具合が芳しくなく、北アルプスは行けそうもなかった。だから東北を選んだのです。

計画が変わったとき、母は一度も「行けなくて残念」とは言いませんでした。代わりに出てきたのが、「鳥海山を1泊かけて登れば、行けると思う」という言葉でした。

出来ないことを嘆くのではなく、出来ることを探す。

そしてそれを、しっかりと成し遂げる。

その姿勢に、私は胸が熱くなります。

これから母は、出来なくなることが増えていくのだと思います。それは避けられないことです。

それでも、母の「行きたい」を応援し続ける息子でありたい。

改めてこの旅で、そのことを強く思いました。


月山・八合目コースの実用情報

コースタイムの目安

八合目から山頂までは片道約2時間半〜3時間、往復のコースタイムは5時間半前後が目安です。標高差は約600mですが、距離が長いぶん傾斜は緩やかで、体力的な負担は標高差の数字ほどではありません。

登山道は石畳や木道から始まり、途中から土と岩の道に変わりますが、全体を通してよく整備されています。「行者返し」という岩場がありますが、傾斜も距離も短く、過度に構える必要はありません。

今回の実績タイム(超スローペース)

時刻 地点
5:00 起床(休暇村庄内羽黒)
7:13 月山八合目登山口 出発
9:38 佛生池小屋 着(休憩)
12:00 月山山頂(ガス)/山頂付近を散策
13:00 下山開始 → 途中から土砂降り
17:00頃 弥陀ヶ原(鳥海山を遠望)
18:06 月山八合目駐車場 ゴール

標準の倍以上かかっていますが、これが私たちのペースです。

知っておきたいポイント

1. 八合目駐車場は約150台。ただし混む

土日祝や晴天の午前中は、県道月山公園線が渋滞することがあります。時間には余裕を持って。

2. 日陰が少ない

月山も鳥海山と同様、樹林帯がほとんどありません。帽子、日焼け止め、水は多めに。私は前日の鳥海山の日焼けが痛むほどでした。

3. 天気は変わる前提で

この日も予報通り、午後から土砂降りになりました。レインウェアは上下必携。着るタイミングを迷わないことが重要です。

4. 弥陀ヶ原の木道では傘を差さない

木道での傘差しは禁止されています。また木道は濡れると滑るので、足元にも注意が必要です。

5. 佛生池小屋は宿泊もできる

宿泊は電話予約制で定員10名程度。寝具はありますが、シュラフシーツの持参が必要です。

6. 山頂の月山神社本宮には開山期間がある

例年7月1日から9月中旬まで。参拝を目的にするなら、時期の確認は必須です。

7. 宿は「登山応援プラン」を探す

今回利用した休暇村庄内羽黒のように、朝食弁当・昼のおにぎりが付くプランは、早朝出発の登山と非常に相性が良いです。


まとめ|3日間の東北山旅を終えて

  • 1日目〜2日目 鳥海山(象潟口→千蛇谷→御室小屋泊→新山の御来光→外輪山)
  • 3日目 月山(八合目→弥陀ヶ原→佛生池小屋→山頂→往路を下山)

膝に不安を抱えた77歳が、2日連続で日本百名山を登りました。

ペースは人の倍かかります。山頂はガスでした。下山では土砂降りにも遭いました。

それでも、山で出会った方々に励まされ、思い出の場所で写真を撮り、雲の切れ間に昨日登った山を見つけ、最後は木道のベンチで並んで空を見上げました。

今できることに、一生懸命取り組む。

母を見ていると、山に登る理由なんてそれで十分なのだと思えてきます。


この記事に関連する情報

  • 山名 月山(がっさん)/標高1,984m/日本百名山・花の百名山・出羽三山
  • 登山口 月山八合目(弥陀ヶ原)登山口 ※駐車場約150台
  • ルート 八合目 → 弥陀ヶ原 → 佛生池小屋 → 山頂(往復)
  • 宿泊 休暇村庄内羽黒(登山応援プラン利用)
  • 時期 8月

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