千葉から車で約600km。77歳の母と46歳の息子で、秋田と山形の県境にそびえる日本百名山・鳥海山を1泊2日で登ってきました。
母は膝に違和感を抱えていて、コースタイムの倍近い時間がかかりました。それでも一歩ずつ登り、山頂直下の御室小屋にたどり着いた1日目の記録です。
コースタイムや山小屋の情報といった実用的な話も入れていますが、山に登らない方にも「親子で旅をするっていいな」と感じてもらえたら嬉しいです。
鳥海山とはどんな山か
鳥海山(ちょうかいさん)は、山形県と秋田県にまたがる標高2,236mの活火山です。山頂に雪が積もった姿が富士山に似ていることから「出羽富士」とも呼ばれ、山形県では「庄内富士」の名でも親しまれています。東北地方では福島県の燧ヶ岳(2,356m)に次いで2番目に高く、山形県の最高峰でもあります。
日本海の海抜0mから一気に2,236mまで立ち上がる、独立峰としては珍しい山です。だからこそ、登っている間ずっと海が見える。これは他の山ではなかなか味わえません。
日本百名山であると同時に、花の百名山・新花の百名山の両方に選ばれており、鳥海山だけに咲く固有種チョウカイフスマも知られています。深田久弥は「山容秀麗という資格では、鳥海山は他に落ちない」と評しました。
山頂には出羽国一宮・鳥海山大物忌神社の本社が鎮座しており、古くから山岳信仰の対象となってきた山でもあります。
基本データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 標高 | 2,236m(最高峰・新山) |
| 所在地 | 山形県遊佐町・酒田市/秋田県由利本荘市・にかほ市 |
| 別名 | 出羽富士、庄内富士、秋田富士 |
| 種別 | 活火山、日本百名山、花の百名山、鳥海国定公園 |
| 登山適期 | 7月上旬〜9月下旬 |
なぜ鳥海山だったのか
鳥海山は、いつか登りたい山ではありました。ただ千葉からは遠く、いつも後回しになっていた山でもあります。
今回登ることになったきっかけは、2つありました。
ひとつは、登山をする友人が鳥海山に登り、「本当に素晴らしい山だった」と教えてくれたこと。話を聞いているうちに、行きたくてたまらなくなりました。
もうひとつは、少し切ない理由です。
もともと母とは北アルプスの縦走を計画していました。ところが母の膝に痛みが出てしまい、2泊の縦走は難しいという結論になった。行き先を失った計画の話をしている中で、鳥海山の名前を出してみたのです。
すると母はこう言いました。
「鳥海山を1泊かけて登れば、行けると思う」
膝が痛い、だからやめる、ではなく、どうすれば行けるかを考える人なんです。
せっかく山形まで行くなら月山も、ということになり、旅の形が決まりました。
- 前日 車中泊で前泊(千葉 → 寒河江PA)
- 1日目〜2日目 鳥海山(御室小屋泊)
- 3日目 月山を登って帰宅
77歳の母とこのスケジュールをこなせるだろうか。正直、私には不安もありました。でも母はまったく心配していない様子で、笑顔でこう答えたのです。
「ハルキの足を引っ張らないように頑張ります」
前泊 ― 千葉から山形へ、想定外の通行止め
初日は移動だけの日。千葉から高速道路で山形の寒河江パーキングエリアまで走り、そこで車中泊することにしました。一気に鉾立登山口まで行くのは、運転する側としてさすがに厳しいと判断したためです。
ところが途中で高速道路が通行止め。高速を降ろされ、1時間ほど下道を走るはめになりました。地図を何度も確認しながら、通行止め区間をなんとか抜けます。
寒河江PAに着いたのは21時頃。作ってきたお弁当を二人で食べて、すぐに寝ました。

3時起床。
眠い。うとうとしながら、夕食の残りを朝ごはんにして食べます。ここから鉾立登山口までは、まだけっこうな距離がある。もう少し前日に先まで進んでおいたほうが良かったかもしれない、と少し反省しました。
💡 千葉など関東から鳥海山へ行く方へ 移動距離が長いので、前泊は登山口により近い場所まで進んでおくのがおすすめです。夏場は高速道路の工事や通行止めも起こりうるので、時間には余裕を持たせておくと安心です。
1日目の山行記録 ― 鉾立登山口から御室小屋へ
8:09 鉾立登山口をスタート
象潟口(鉾立)コースは、鳥海山でもっともポピュラーなルート。7合目の御浜まで登山道がよく整備されており、初めて鳥海山に登る人にもすすめられるコースです。頂上までの標高差は約1,300m、鳥海ブルーライン沿いにあり、駐車場やビジターセンターなど設備も整っています。
ただし、優しいコースという意味ではありません。千蛇谷経由での山頂往復は、休憩を入れると12時間程度かかります。これを日帰りでこなす人が多いのですから、鳥海山に集う登山者の層の厚さがうかがえます。
太陽はギンギン。登り出してすぐに展望台があり、そこからこれから登る鳥海山の頂きが、だいぶ遠くに見えました。
「目指すはあの頂きへ」
自然と気合いが入ります。

花の道 ― 母のペースがちょうどいい
天気が良く、しばらくは鳥海山を正面に見ながら登っていけます。とにかく暑い。
母は家でクーラーのない生活をしているので、暑さに強い。逆に私はめっぽう暑さに弱く、それだけで体力を奪われます。だから、母のゆっくりしたペースがちょうどいいのです。
御浜小屋までの道は、驚くほど花が多かった。
- クルマユリ
- チングルマ
- コバギボウシ
- ニッコウキスゲ
高山植物が大好きな母は、花の名前を確かめながらゆっくり登っていきます。今日は1泊するのだから急ぐ必要はない。日陰がないのが辛いところですが、何度も休憩を挟みながら進みました。

11:33 御浜小屋に到着
鳥海湖が綺麗に見えます。ここで休憩。
それにしても日差しが強く、後ろの首に猛烈な熱を感じました。風があるのが唯一の救いです。

11:57 稜線へ
海側は雲がダイナミックに湧き、見上げれば青空。左右には花の咲く登山道が続きます。東北の山らしい、おおらかな風景でした。

千蛇谷 ― この日いちばんの絶景
登りは千蛇谷(せんじゃだに)経由を選びました。一度大きく下り、大きな雪渓の上を通り、そこから長い登りが続きます。
下っている最中、すれ違う人に「お先にどうぞ」と道を譲ると、逆に「どうぞどうぞ」と譲られる。話を聞くと、日帰りで登った方々が相当体力を削られて、今まさに下山中なのでした。
私と母では日帰りはまず無理です。リスペクトの気持ちとともに、先に通させてもらいました。
千蛇谷の景色は、本当に凄かった。
ここはゆっくり歩きたい場所です。少し登って振り返るたびに、景色が変わっていく。何度も振り返っているうちに、時間はどんどん過ぎていきました。
日本海が綺麗に見えていました。登山中にこれほどはっきりと海が見えたのは、私は初めてです。

山で出会った、ひとりの女性
千蛇谷で、この日初めて人を追い抜きました。相当バテている女性です。
話を聞くと、同じ登山口を6時に出発したとのこと。私たちは8時過ぎのスタートですから、かなりのスローペースであることがわかります。
この方とは、この先何度も抜いては抜かれを繰り返し、山小屋でも、翌日もよく話をすることになります。思い出深い出会いになりました。山小屋に着いたら無事を伝えあう約束をして、私たちは先へ進みました。
山では、こういうことが起こります。名前も知らない相手の無事を、本気で気にかける。街ではあまりない距離感かもしれません。
実際、この山行では本当に多くの方が母に声をかけてくださいました。ペースがゆっくりな分、すれ違う時間が長くなる。「お母さん、すごいね」「気をつけてね」と、たくさんのエールをいただきました。

16:38 御室小屋に到着
御室小屋(鳥海山頂御室参籠所)は、標高約2,200m、鳥海山の最高地点である新山の直下、大物忌神社の境内に併設された山小屋です。
登山口を出てから約8時間半。標準コースタイムの倍近くかかりましたが、無事にたどり着きました。
気力が残っていれば、私ひとりで山頂まで行ってこようかとも考えていましたが、疲れがひどく、まったくそんな気になれません。新山は明日にしよう、とすぐ決まりました。
小屋では、追加料金(このときは1人+1,000円)で半個室に変更できるとのこと。先着順なので空いていないだろうと思っていましたが、運良く空いていたので変更しました。
母は部屋に着くなり、横になってしまいました。体力的に限界だったのだと思います。

夕陽が、母の手のひらに乗った
夕食を済ませ、小屋の前で夕陽を待ちました。太陽の方角を見れば、日本海に沈んでいくのだとわかります。
空がオレンジ色に変わっていく。
母が手を出すと、ちょうど夕陽が手のひらの上に乗りました。
やがて太陽は海へ落ちていき、周囲は歓声の渦に包まれました。目の錯覚でしょうか、太陽が海の中に吸い込まれていくように見えたのです。
日没後も空は美しく、私は大好きなノンアルコールビールをぐびっとやりながら、ひとり景色を眺めていました。

明日の日の出は外輪山で見ようか。新山は険しいから、朝食後の明るくなってから登ろう。そんな相談をして、20時就寝。
寝る前に外へ出てみたら、満点の星空でした。

——そして翌朝、私たちは予定を変更することになります。
(2日目・御来光と新山アタック編に続きます)
実用情報:御室小屋に泊まる
鳥海山を1泊2日で登る場合、多くの人が利用するのが山頂の御室小屋です。予約前に知っておきたいポイントをまとめます。
寝袋(シュラフ)は必ず持参
御室小屋には寝具の貸し出しがありません。シュラフ等を必ず持参してください。これを知らずに行くと大変なことになります。荷物は重くなりますが、避けられない装備です。
料金・営業期間の目安
1泊2食付きで大人7,700円、夕食のみ・朝食のみはそれぞれ1,500円。個室料金は別途必要です。営業期間は7月上旬〜8月下旬で、予約は電話のみ。連絡先は鳥海山大物忌神社社務所(0234-77-2301)です。収容人員は50名。
営業期間は荷揚げや天候などで前後する可能性があります。また、ホームページは山小屋運営のため毎日は更新できないとのことで、満員表示でもキャンセルで案内できる場合があるため、電話で確認するのが確実です。
⚠️ 料金・営業期間・個室の扱いは年によって変わります。必ず最新情報を公式(鳥海山大物忌神社)でご確認ください。
鉾立登山口について
鳥海ブルーラインを上った先にある「高原の駅鉾立」には、24時間駐車可能な登山者用の無料大駐車場があり、公衆トイレ、鉾立ビジターセンター、稲倉山荘や鉾立山荘なども揃っています。前泊の車中泊にも使いやすい環境です。
高齢の親と山に登るために、意識したこと
77歳の母と登るにあたって、私が心がけたことを挙げておきます。同じように親と山へ行きたい方の参考になれば。
1. 日帰りを諦めて、1泊にする
これが最大のポイントでした。鳥海山の象潟口は日帰りの人が大多数ですが、私たちには絶対に無理です。1泊にした瞬間、「急がなくていい」という余裕が生まれました。行程を延ばすことは、体力を補う一番の方法です。
2. ペースは、遅いほうに合わせきる
標準コースタイムは頭から消しました。倍かかっても構わない。むしろ暑さに弱い私にとって、母のペースはちょうど良かったのです。
3. 休憩を惜しまない
日陰のない登山道では、こまめに止まるしかありません。「あと少しだから頑張ろう」を言わないようにしました。
4. 楽しみを道中に置く
母は高山植物が好きなので、花を見る時間そのものが目的になります。頂上だけを目標にすると、道のりがただの苦行になってしまう。
5. 膝に不安があるなら、下りを甘く見ない
登りより下りのほうが膝には負担がかかります。ストックやサポーターは必須装備だと考えています。
1日目のまとめ
| 時刻 | 地点 |
|---|---|
| 8:09 | 鉾立登山口 出発 |
| 11:33 | 御浜小屋 着(休憩) |
| 11:57 | 御浜小屋 発 |
| — | 千蛇谷経由 |
| 16:38 | 御室小屋 着(泊) |
| 20:00 | 就寝 |
コースタイムだけ見れば、ずいぶんのんびりした山行です。でもこの日、母は膝に違和感を抱えながら、一度も「もうやめる」と言いませんでした。
千葉から600km。8時間半の登り。手のひらに乗った夕陽と、満天の星。
明日はいよいよ、新山の山頂です。
(2日目に続く)


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